部分空間の基本的な問題を4つ集めました。各問題に解答だけでなく「問題の意味の解説」を付けてあります。ぜひ参考にしてください。
部分空間であるための条件
この記事で使う「ベクトル空間$V$の部分集合$W$が$V$の部分空間であるための条件」は以下の通りです。

ベクトル空間や部分空間がまだよくわかっていない人は先に以下の記事を読みましょう。
例題
例1
解答の前に問題の意味を説明しておきますが、まず、$R$というのは「実数」を表します。
そのため、$R^2$というのは実数を2つ並べてできるベクトル(数ベクトル)の集合「実2次数ベクトル全体」であり、幾何学的には「$xy$平面」のことです。
$R^3$なら「実3次数ベクトル全体」で、幾何学的には「$xyz$空間」ですね。$R^4$は「実4次数ベクトル全体」で、幾何学的な意味はありません。
つまり、「次の$W$はベクトル空間$R^2$の部分空間かどうか調べよ」というのは、「$W$が実2次数ベクトル全体の部分空間か調べよ」という意味です。
そして、$W$の式は「$\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix}$を満たす$\begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix}$の集合を$W$とする」という意味を持っています。
$W$は$\begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix}$の集合なので、$W$は実2次数ベクトル全体の部分集合であることは明記されていませんが既に分かっています。
だから、後は「和とスカラー倍の結果が$W$の要素に含まれる」ということを確かめれば良いですね。
① $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b} \in W$ ならば $\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \in W$
$\begin{pmatrix} x_{1}’ \\ x_{2}’ \end{pmatrix},\begin{pmatrix} x_{1}” \\ x_{2}”\end{pmatrix} \in W$とすると、
$$\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}’+x_{1}” \\ x_{2}’+x_{2}” \end{pmatrix} &=& \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}’ \\ x_{2}’ \end{pmatrix} \\
&+& \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}” \\ x_{2}” \end{pmatrix} \end{eqnarray}$$
ここで、$\begin{pmatrix} x_{1}’ \\ x_{2}’ \end{pmatrix},\begin{pmatrix} x_{1}” \\ x_{2}”\end{pmatrix} \in W$より、
$$\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}’ \\ x_{2}’ \end{pmatrix} &=& \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\
\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}” \\ x_{2}” \end{pmatrix} &=& \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray}$$
であるから、
$$\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}’+x_{1}” \\ x_{2}’+x_{2}” \end{pmatrix} &=& \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix}+\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\
&=& \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray}$$
したがって、$W$の要素同士の和の結果も$W$の要素であると分かったので、条件➀は満たされている。
② $\boldsymbol{a} \in W, k \in \boldsymbol{R}$ ならば $k \boldsymbol{a}\in W$
$\begin{pmatrix} x_{1}’ \\ x_{2}’ \end{pmatrix} \in W, k’ \in \boldsymbol{R}$とすると、
$$\begin{eqnarray} \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} k’ x_{1}’ \\ k’ x_{2}’ \end{pmatrix} &=& k’ \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1}’ \\ x_{2}’ \end{pmatrix} \\
&=& k’ \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \end{eqnarray}$$
したがって、$W$の要素のスカラー倍の結果も$W$の要素であると分かったので、条件②は満たされている。
③ 空集合でない
例えば、$\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix}$は$W$に含まれているので、空集合ではない。
よって、条件①, ②, ③が満たされるので、$W$は$R^2$の部分空間である。
例2
次の$W$はベクトル空間$R^3$の部分空間かどうか調べよ。
$$\begin{eqnarray} W= \left \{ \begin{array}{c|c} \boldsymbol{x} \in \boldsymbol{R}^3 & \begin{array}{l} x_{1} + 2x_{2} – x_{3} = 1 \\ 2x_{1} – x_{2} + 3x_{3} = 0 \end{array} \\ \end{array} \right \} \end{eqnarray}$$
先ほどの問題では連立方程式が行列で表されていましたが、この問題はそのままの連立方程式です。
だからといって、やることは変わりません。3つの条件を満たすかどうか確認するだけです。
① $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b} \in W$ ならば $\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \in W$
$(x_{1}’,x_{2}’,x_{3}’),(x_{1}”,x_{2}”,x_{3}”) \in W$とすると、
$$\begin{eqnarray} (x_{1}’ &+& x_{1}”)+2(x_{2}’+x_{2}”)-(x_{3}’+x_{3}”) \\
&=& (x_{1}’ + 2x_{2}’ – x_{3}’)+(x_{1}” + 2x_{2}” – x_{3}”) \\
&=& 1+1 =2 \end{eqnarray}$$
$W$が$R^3$のベクトル空間であるならば、和の結果が$1$にならなければいけないが、$2$になっている。
よって、和の結果が$W$の要素でないため、$W$は$R^3$のベクトル空間ではない。
例3
次の$W$はベクトル空間$R^3$の部分空間かどうか調べよ。
$$\begin{eqnarray} W= \left \{ \begin{array}{c|c} \boldsymbol{x} \in \boldsymbol{R}^3 & \begin{array}{l} x_{1} + 2x_{2} – x_{3} \leq 1 \\ 2x_{1} – x_{2} + 3x_{3} = 0 \end{array} \\ \end{array} \right \} \end{eqnarray}$$
この問題は先ほどの問題の連立方程式の上の式が「$\leq$」になっただけです。
何だか難しそうにも見えますが、例2とやることは一緒です。
① $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b} \in W$ ならば $\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \in W$
$(x_{1}’,x_{2}’,x_{3}’),(x_{1}”,x_{2}”,x_{3}”) \in W$とすると、
$$\begin{eqnarray} (x_{1}’ &+& x_{1}”) + 2(x_{2}’+x_{2}”) – (x_{3}’+x_{3}”) \\
&=& (x_{1}’ + 2x_{2}’ – x_{3}’)+(x_{1}” + 2x_{2}” – x_{3}”) \\
&=& 1+1 =2 \end{eqnarray}$$
$W$が$R^3$のベクトル空間であるならば、和の結果が$1$以下にならなければいけないが、$2$になっている。
よって、和の結果が$W$の要素でないため、$W$は$R^3$のベクトル空間ではない。
例4
次の$W$はベクトル空間$\boldsymbol{R}[x]_2$の部分空間であるかどうか調べよ。
$$W = \{ f(x) \in \boldsymbol{R}[x]_2 \mid f(1)=0 \}$$
$\boldsymbol{R}[x]_2$は「$2$次以下の多項式全体」という意味です。
また、$W$の式は「$f(1)=0$を満たす$2$次以下の多項式$f(x)$の集合を$W$とする」という意味です。
例えば、$f(x)=x^{2}-x^{1}$とすると、$f(1)=0$なので、$f(x)$は$W$に含まれます。
今までの問題とは少し違いますが、結局は3つの条件を満たすかどうかを確認するだけです。
① $\boldsymbol{a},\boldsymbol{b} \in W$ ならば $\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b} \in W$
$$\begin{eqnarray} f(x)’ &=& a_{2}x^{2}+a_{1}x+a_{0} \in W \\
f(x)” &=& b_{2}x^{2}+b_{1}x+b_{0} \in W \end{eqnarray}$$
とすると、$f(1)’=0,f(1)”=0$より、
$$\begin{eqnarray}f(1)’ &=& a_{2}+a_{1}+a_{0}=0 \\
f(1)” &=& b_{2}+b_{1}+b_{0} \end{eqnarray}$$
となる。ここで、
$$\begin{eqnarray}f(x)’ &+& f(x)” \\
&=& (a_{2}x^{2}+a_{1}x+a_{0})+(b_{2}x^{2}+b_{1}x+b_{0}) \end{eqnarray}$$
であるから、
$$\begin{eqnarray}f(1)’+f(1)”&=&(a_{2}+a_{1}+a_{0})+(b_{2}+b_{1}+b_{0}) \\
&=& 0+0=0 \end{eqnarray}$$
となり、和の結果が$W$に含まれているので、条件➀は満たされている。
② $\boldsymbol{a} \in W, k \in \boldsymbol{R}$ ならば $k \boldsymbol{a}\in W$
$f(x)’=a_{2}x^{2}+a_{1}x+a_{0} \in W, k \in \boldsymbol{R}$とすると、$f(1)’=0$より、
$$f(1)’=a_{2}+a_{1}+a_{0}=0$$
となる。ここで、
$$k f(x)’=k(a_{2}x^{2}+a_{1}x+a_{0})$$
であるから、
$$k f(1)’=k(a_{2}+a_{1}+a_{0})=0$$
となり、スカラー倍の結果も$W$に含まれているので、条件②は満たされている。
③ 空集合でない
例えば、$f(x)=x^{2}-x^{1}$は$W$に含まれるので空集合ではない。
よって、条件①, ②, ③が満たされるので、$W$は$\boldsymbol{R}[x]_2$の部分空間である。
以上です。
次の$W$はベクトル空間$R^2$の部分空間かどうか調べよ。
$$\begin{eqnarray} W= \left \{ \begin{array}{c|c} \boldsymbol{x} \in \boldsymbol{R}^2 & \begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 2 & -1 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix} \\ \end{array} \right \} \end{eqnarray}$$