目次
ベクトル空間のおさらい
まずはベクトル空間について軽くおさらいしておきましょう。
ベクトル空間とは?
以下の8つの性質を全て満たすような$u$、$v$のことを「ベクトル」といい、そのベクトルの集合のことを「ベクトル空間」と言います。

ここでの「ベクトル」は高校までのベクトルのイメージとは全く異なるもので、「向き」はなく、「矢印で表す」こともありません。上の8つの性質を満たしてさえいれば、「ベクトル」と呼ばれるのです。
覚えておくべきポイント
「結局ベクトル空間って何なんだ???」と思われている方もいると思いますが、覚えておくべきことは1つだけです。
これを覚えておきましょう。少し解説すると、あるベクトル空間$V$があるとして、$V$の要素であるベクトル$u$, $v$, $w$について、
和:$u$ + $v$ = $w$ $\qquad$ スカラー倍:$au$ = $v$
となっている場合、和とスカラー倍の結果の$w$と$v$はベクトル空間Vの要素であるため、和とスカラー倍をしてもベクトル空間Vから出ることはないですよね?「和とスカラー倍が出来る」とはそういう意味なのです。
ベクトル空間についてさらに詳しく知りたい方はこちらの「ベクトル空間とは?定義や意味を分かりやすく解説!」をご覧ください。高校までのベクトルと線形代数のベクトルの違いについても解説しています。

部分空間の世界に突入だ~!
部分空間
部分空間とは?
例えば、あるベクトル空間$V$ = {$u$, $v$, $w$, $x$}があるとします。この時、$W$ = {$u$, $v$, $w$}という集合があるとすると、$W$は$V$の部分集合であることが分かります。そして、$W$の要素$u$、$v$、$w$について、
和:$u + v = w$ $\qquad$ スカラー倍:$au$ = $v$
となるとすると、和とスカラー倍をしても集合$W$から出ていません。先ほどの「覚えておくべきポイント」を思い出すと、「和とスカラー倍が出来ればベクトル空間」でした。つまり、Wはベクトル空間ってことです。
その結果、ベクトル空間$V$の部分集合$W$がベクトル空間となっており、この時$W$を$V$の「部分空間」といいます。ベクトル空間の中にさらにベクトル空間があるという感じで、図のようなイメージになります。

だから、部分空間ってベクトル空間でもあるんですよね。
定義
部分空間の定義はこれです。

定義の解釈
では、定義をどう解釈すればいいか説明していきます。
②、③の式
先に②、③の式から説明します。
②、③の式って、要は「和とスカラー倍が出来る」ってことで、何度も言ってるベクトル空間になるための条件でしたよね?部分空間はベクトル空間でもあるわけでしたから、この条件が必要になるのも理解できるのではないでしょうか?
➀の式
これは日本語に変換すると、「零ベクトルは$W$に含まれる」ですね。逆に言えば「Wには”必ず“零ベクトルが含まれる」ということです。つまり、部分集合$W$は「空集合ではない」ってことなんです。
何だかよく分からないかもしれませんが、こう考えてみましょう。③の式において、$a = 0$とします。すると、
$$a\boldsymbol{u} = 0\boldsymbol{u} = \boldsymbol{0} \in W$$
となり、これは➀の式と同じです。③の式に含まれるけどちょっと特殊だからわざわざ条件式➀として挙げているだけなんですよね。
まとめると
結局、この定義の3つの式は「ベクトル空間になるための条件」を言ってるだけです。だから何も難しく考える必要はありません。
部分空間の例題
例題1
$$W = \{\boldsymbol{x} \in R^n | A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}\}$$
解答
まずは、$W$がどんな要素の集合か確認しましょう。${\boldsymbol{R}}^n$は$\begin{pmatrix} x_{1} \\ \vdots \\ x_{n} \\ \end{pmatrix}$という$n$次列ベクトル全体を表しており、例えば、${\boldsymbol{R}}^2 = \{\begin{pmatrix} 0 \\ 0 \end{pmatrix}, \begin{pmatrix} 1 \\ 0 \end{pmatrix}, ・・・, \begin{pmatrix} x_{1} \\ x_{2} \end{pmatrix} \}$です。つまり、$W = \{\boldsymbol{x} \in R^n | A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}\}$ってのは、
$$WはA\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}を満たすような\boldsymbol{x} = \begin{pmatrix} x_{1} \\ \vdots \\ x_{n} \\ \end{pmatrix}の集合$$
ってことを言ってます。
では、$W$が以下の部分空間の3条件を満たすかどうかを調べていきましょう。

➀ $\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$とすると、$A\boldsymbol{x} = A\boldsymbol{0} = \boldsymbol{0}$。よって$A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$を満たすような$\boldsymbol{x}$は$W$の要素であるから、$\boldsymbol{0} \in W$
② ${\boldsymbol{x}, \boldsymbol{x’}} \in W$とすると、$A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$、$A\boldsymbol{x’} = \boldsymbol{0}$であるから、
$$A\boldsymbol{x} + A\boldsymbol{x’} = A(\boldsymbol{x} + \boldsymbol{x’}) = \boldsymbol{0}$$
したがって、${\boldsymbol{x} + \boldsymbol{x’}} \in W$となり、和が$W$に含まれることが分かる。
③ $\boldsymbol{x} \in W, a\in R$とすると、$A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$より、
$$A(a\boldsymbol{x}) = a(A\boldsymbol{x}) = a(\boldsymbol{0}) = \boldsymbol{0}$$
したがって、$a\boldsymbol{x} \in W$となり、スカラー倍も$W$に含まれることが分かる。
よって、部分空間になるための条件を満たすから、$W$は$R^n$の部分空間である。
例題2

解答
与式は$A = \begin{bmatrix} 1 & 2 & -1\\ 2 & -1 & -3 \end{bmatrix}$とおくと、
$$W = \{\boldsymbol{x} \in {\boldsymbol{R}}^3 | A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}\}$$
と書くことが出来る。よって、前問より$W$は${\boldsymbol{R}}^3$の部分空間である。
この問題のポイントは連立方程式が「右辺 = 0」であることです!
例題1より$W = \{\boldsymbol{x} \in {\boldsymbol{R}}^n | A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}\}$を満たすような$W$は${\boldsymbol{R}}^n$の部分空間になると分かりました。
そこで例題2の解答のように連立方程式の係数をまとめて行列Aにしてしまえば、「右辺 = 0」の連立方程式は全て$A\boldsymbol{x} = \boldsymbol{0}$となり、全て部分空間になるのです!
逆に言えば、「右辺 = 0」でない連立方程式の場合は部分空間にはなりません!
まとめ
今回は部分空間について例題を交えて解説しました。部分空間を深く理解するにはベクトル空間の理解が必要不可欠ですので、まだ理解できてない方はこちらの記事「ベクトル空間とは?定義や意味を分かりやすく解説!」をご覧ください!
最後まで見て頂きありがとうございました!

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