ベクトル空間とは?分かりやすく解説します!

ベクトル空間

こんにちは、krです。今回は

ベクトル空間って何だよ!意味分かんないよ!!

と嘆く大学生に向けて「ベクトル空間」を分かりやすく解説します。

初学者におすすめの線形代数の参考書・問題集7選

ベクトルの定義

いきなりですが、ベクトルって何でしょうか?

先生
先生
くるる
くるる

「大きさと向きを持つ」とか「矢印で書く」やつっすよね?

そう。確かに高校では「大きさと向きを持つ」とか「矢印で書く」ものとして習いました。

でも、「大きさと向きを持つ」「矢印で書く」という情報だけでは、結局ベクトルがどういうものなのかよくわかりません。

数学で扱うなら、もっとちゃんとした「定義」が必要ですよね。だから、実はベクトルにもちゃんと「定義」があるのです。

それがこれ。

ベクトルの定義

以下の8つの性質を満たすように「和とスカラー倍」が定義できるものを「ベクトル」と呼ぶ

和が満たすべき性質

(1) 入れ替えができる
$$\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b}=\boldsymbol{b}+\boldsymbol{a}$$

(2) 計算の順番を変えてもOK
$$(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b})+\boldsymbol{c}=\boldsymbol{a}+(\boldsymbol{b}+\boldsymbol{c})$$

(3) $\boldsymbol{0}$を足しても変わらない
$$\boldsymbol{a}+\boldsymbol{0}=\boldsymbol{a}$$

(4) 符号が反対のものを足し合わせたら$\boldsymbol{0}$になる
$$\boldsymbol{a}+(-\boldsymbol{a})=\boldsymbol{0}$$

スカラー倍が満たすべき性質

$k,l$はスカラーである。

(1) 計算の順番を変えてもOK
$$(kl)\boldsymbol{a}=k(l\boldsymbol{a})$$

(2) スカラーの和に対する分配法則が成り立つ
$$(k+l)\boldsymbol{a}=k\boldsymbol{a}+l\boldsymbol{a}$$

(3) スカラーによる分配法則が成り立つ
$$k(\boldsymbol{a}+\boldsymbol{b})=k\boldsymbol{a}+k\boldsymbol{b}$$

(4) $1$を掛けても変わらない
$$1\boldsymbol{a}=\boldsymbol{a}$$

くるる
くるる

え?こんなの満たして当たり前じゃないんすか?

確かに、高校で習ったベクトルならどれも満たして当たり前の性質ばかりです

でもですよ。仮に8つの性質を満たすように「和とスカラー倍」を定義できるものが他にもあるなら、それも「ベクトル」と呼ぶことが出来ると思いませんか?

つまり、高校で習ったベクトル以外にも、ベクトルと呼べるものが存在するんです。ベクトルには色んな形があるってことですね。

ちなみに高校で習ったベクトルは「幾何ベクトル」と呼ばれています。

「ベクトルの定義」を満たすもの

ポンタ
ポンタ

実際に、8つの性質を満たすように「和とスカラー倍」が定義できるものが他にもあるなんてことあり得るんですか?

あり得るのです!

先生
先生

ここから先、大事なのは「8つの性質を満たすように和とスカラー倍が定義できるならば、ベクトルである」ということをしっかり理解することです。

「大きさと向きを持つ」とか「矢印で書く」とかは関係ありません

「8つの性質を満たすように和とスカラー倍が定義できる」ものがベクトルなんです。そう定義されているんです。

では、実際に高校のベクトル以外に、ベクトルの定義を満たすものを紹介しましょう。

実$n$次数ベクトル

実$n$次数ベクトルは「要素が実数で、要素数が$n$個の数ベクトル」で、数ベクトルというのは「数字を縦または横一列に並べたもの」です。

「既にベクトルって付いてるじゃん!」って思うかもしれませんが、それは数ベクトルがベクトルの定義を満たすからです。

例えば、実$3$次数ベクトルというのは以下のようなものです。

$$\left( \begin{array}{c} 1 \\ 2 \\ 3 \end{array} \right)$$

一般に、次のような実$n$次数ベクトルは「ベクトル」です。

実$n$次数ベクトル

$a_1,a_2, \cdots ,a_n$は実数とする。

$$\left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array} \right)$$

和とスカラー倍は次のように定義できます。

$$\left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array} \right) + \left( \begin{array}{c} b_1 \\ b_2 \\ \vdots \\ b_n \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} a_1+b_1 \\ a_2+b_2 \\ \vdots \\ a_n+b_n \end{array} \right)$$

スカラー倍

$$k \left( \begin{array}{c} a_1 \\ a_2 \\ \vdots \\ a_n \end{array} \right) = \left( \begin{array}{c} ka_1 \\ ka_2 \\ \vdots \\ ka_n \end{array} \right)$$

これも当たり前のように見えるかもしれませんが、縦に数字が並んだよく分からんものに対する「和とスカラー倍」が当たり前なわけないです。

定義されているから、「和とスカラー倍」が出来るんです。

そして、このように定義することによって和とスカラー倍の8つの性質を満たすことが出来るんです。

例えば、和の性質(1)の「入れ替えができる」は、

より、満たされていることが分かります。他の性質も同じように満たされます。

なので、数ベクトルは「ベクトル」であると言えるのです。

$n$次以下の多項式

係数が実数である以下のような$n$次以下の多項式も「ベクトル」です。

$n$次以下の多項式

$a_n,a_{n-1},a_0$は実数とする。

$$a_{n}x^{n}+a_{n-1}x^{n-1}+ \cdots + a_{0}$$

この多項式は和とスカラー倍を次のように定義することが出来ます。

スカラー倍

これも詳しくは述べませんが、8つの性質をちゃんと満たします。だからベクトルなんです。

よって、ベクトルには少なくとも「幾何ベクトル」、「実$n$次数ベクトル」、「$n$次以下の多項式」の3つがあることが分かりました。

「ベクトル」に含まれるもの

幾何ベクトル、実$n$次数ベクトル、$n$次以下の多項式、etc.

「ベクトル」と定義されるものは他にもたくさんあるので、調べてみてください。

先生
先生

ベクトル空間とは?

ベクトル空間は簡単に言えば「同じ種類のベクトルの集合」です。

例えば、実$n$次数ベクトルを全てまとめた「実$n$次数ベクトル全体」は「ベクトル空間」です。

実$3$次数ベクトル全体の場合、こんな感じのイメージ。とにかくベクトルの集合がベクトル空間です。

また、$n$次以下の多項式を全てまとめた「$n$次以下の多項式全体」も「ベクトル空間」です。

$2$次以下の多項式全体の場合、こんな感じのイメージです。

そして、「ベクトル空間はベクトルの集合」ですが、同時に、「ベクトルはベクトル空間の元」ともいえることが分かります。

この記事では「和とスカラー倍が定義できるものをベクトルと呼ぶ」という説明をしましたが、教科書の「ベクトル」の説明では恐らくこっちが使われてるんじゃないでしょうか。まぁどっちでも大丈夫だと思います。

まとめ

今回は「ベクトル空間」について解説しました。ベクトル空間は線形代数の中でもかなり抽象的な概念で、慣れないし、何をやってるのか良く分からないと思います。

でも、テストに出る以上やるしかないですよね..

なので、とにかく「和とスカラー倍が定義できるというベクトルの定義を満たすものをまとめて集合にしたもの」が「ベクトル空間」であることが理解できるように頑張りましょう。

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