先に言っておきますが、置換は線形代数においては「行列式の定義」を説明するためだけの概念です(多分)。なので、行列式の定義をちゃんと知りたい人以外にはあまり役立つ情報ではありません。ご注意ください。
逆に行列式の定義を理解したい人はここに書いてあることが全部通して理解できないと難しいかもしれません。
行列式の定義の解説は「行列式の定義をどこよりも詳しく分かりやすく解説します!」をご覧ください。
置換
置換とは
置換とは「数字を別の数字に置き換える」ことです。
例えば、$ \{ 1 \ \ 2 \ \ 3 \ \ 4 \} $という数字の順番をシャッフルしたら、$ \{ 2 \ \ 4 \ \ 1 \ \ 3 \} $という順番になったとします。
この時、それぞれの数字は以下のような交換が行われたと考えられます。

これが置換です。線形代数では記号$\sigma$(シグマ)を使って、次のように表します。

この置換$\sigma$は、「1→2、2→4、3→1、4→3という数字の置き換えを行う」という意味になります。
「上の数字を下の数字と置き換える」ということを理解しましょう!

行列と置換の関係性
置換は行列っぽい見た目をしていますが、行列とは全く関係ありません。
あくまでも「置換」という新しい概念が導入されて、たまたま行列っぽい見た目をしているだけです。
なので、行列で勉強したことは一旦忘れた方が良いです。
置換の書き方や順番
例えば$\sigma(1)$は「置換$\sigma$において、1は何に置き換わるか」という意味があり、先ほどの例では、1→2だったので、$\sigma(1) = 2$ ということになります。
同様に、$\sigma(2) = 4、\sigma(3) = 1、\sigma(4) = 3$となります。
また、置換は「上の数字を下の数字と置き換える」ということを守りさえすれば、順番は入れ替えても大丈夫です。また、自分自身への置換は省略することが出来ます。
例えば次のようになるわけです。

置換の積
置換の積とは「2つの置換を1つの置換にまとめたもの」です。
例えば、以下のような置換$\sigma$と置換$\tau$(タウ)を考えましょう。

先ほど$\sigma(1) = 2$ という意味だと説明しました。それと同じように$\tau(1) = 3$ となりますね。
では、$\sigma(\tau(1))$はどうなるでしょうか?

まず、$\tau(1) = 3$なので、$\sigma(\tau(1)) = \sigma(3)$となります。そして、$\sigma(3) = 1$なので、$\sigma(\tau(1)) = 1$となりそうです。
この計算は次のようにイメージできます。

同様に、$\sigma(\tau(2)) = 3$、$\sigma(\tau(3)) = 4$、$\sigma(\tau(4)) = 2$となるので、2つの置換を1つにまとめた新たな置換$\sigma \tau$は次のように書けます。
$$\sigma\tau = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4\\ 1 & 3 & 4 & 2 \end{pmatrix}$$
と書けます。この$\sigma \tau$が「置換の積」です。考え方としては関数の合成と同じです。

なるほどっす!
単位置換・逆置換
単位置換
単位置換とは「他の数字への置き換わりがない置換」で、$\varepsilon$(イプシロン)という記号で表されます。
$$ \varepsilon = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 1 & 2 & 3 & 4 \end{pmatrix}$$
逆置換
例えば、次のような行列を考えましょう。
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 2 & 4 & 1 & 3 \end{pmatrix}$$
この行列の上と下を逆にした次のような置換$\sigma^{-1}$を$σ$の「逆置換」と呼びます。
$$\sigma^{-1} = \begin{pmatrix} 2 & 4 & 1 & 3 \\ 1 & 2 & 3 & 4 \end{pmatrix}$$
$\sigma^{-1}$は$\sigma$の置換の逆なわけですから、当然$\sigma^{-1}\sigma = \sigma\sigma^{-1} = \varepsilon $となります。
巡回置換とその積
巡回置換
例えば、次のような置換を考えましょう。
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 1 & 4 & 3 & 5 & 2\end{pmatrix}$$
$2,4,5$だけに注目すると、「2→4, 4→5, 5→2」というように1つずつずらした置換になっています。
このような置換を「巡回置換」と呼び、「2→4、4→5、5→2」の部分さえあれば良いので、次のように書きます。$\begin{pmatrix} 2 & 4 & 5 \end{pmatrix}$は「2→4, 4→5, 5→2に置換する」という意味があります。
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5\\ 1 & 4 & 3 & 5 & 2\end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 2 & 4 & 5 \end{pmatrix}$$
1つ注意なのですが、巡回置換は右回りに読みます。なので、「5→4、4→2、2→5」とは読めません。
また、$\begin{pmatrix} 2 & 4 & 5 \end{pmatrix}$は$\begin{pmatrix} 4 & 5 & 2 \end{pmatrix}$と書いても$\begin{pmatrix} 5 & 2 & 4 \end{pmatrix}$と書いてもいいです。
なぜなら、どの書き方でも右回りに読んでいけば、「2→4、4→5、5→2」と同じ意味になるからです。
巡回置換の積
次は以下のような置換を考えましょう。
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 & 5 & 6\\ 3 & 5 & 4 & 1 & 6 & 2\end{pmatrix}$$
この置換は以下のように2つの巡回置換から出来ています。

このように、置換がいくつかの巡回置換から出来ているとき、その置換を以下のように巡回置換を掛けたような形で表すことができ、これを「巡回置換の積」といいます。
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 3 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 2 & 5 & 6 \end{pmatrix}$$
巡回置換の積は右側の巡回置換から順番に置換していきます。つまり、単位置換に巡回置換の積$\sigma$を適用させると、その過程は次のようになるわけです。上の数字はいじらずに、下の数字だけを変えることに注意しましょう。

言葉で説明するなら、$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 3 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 2 & 5 & 6 \end{pmatrix}$は「(2→5, 5→6, 6→2)という置換をした後に、(1→3, 3→4, 4→1)という置換をする」って意味になります。
あと半分です。頑張りましょう!

互換・互換の積
互換
互換とは「2文字の巡回置換」です。その名の通り「互いに置換する」ってことですね。例えば、$\begin{pmatrix} 1 & 2 \end{pmatrix}$という巡回置換は互換です。
また、以下のような置換も$\begin{pmatrix} 2 & 4 \end{pmatrix}$という巡回置換で表せるので互換です。
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 1 & 4 & 3 & 2 \end{pmatrix}$$
また、巡回置換と同じように$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 3 & 4 \end{pmatrix}$と書くことができ、これを「互換の積」といいます。
この互換の積も巡回置換の積と同じで、右側の互換から順番に置換していきます。つまり以下のような順番で置換されているわけです。

これも下の数字を入れ替えているだけです。上の数字はいじりません。
言葉で説明すると、$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 3 & 4 \end{pmatrix}$は「3と4を交換した後に、1と2を交換する」って意味になります。
互換の積と巡回置換の関係
例えば、$\begin{pmatrix} 1 & 3 & 4 \end{pmatrix}$という巡回置換を単位置換に適用すると、次のような置換になります。

次に、$\begin{pmatrix} 1 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 3 \end{pmatrix}$という互換の積を単位置換に適用させると、次のような置換になります。

さて、巡回置換を適用した場合と、互換の積を適用した場合を比べるとどちらも同じ置換になっていることが分かります。つまり、次のような式が成り立ちます。
$$\begin{pmatrix} 1 & 3 & 4 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 3 \end{pmatrix}$$
実は、どんな置換でも巡回置換の積に書き換えることができ、どんな巡回置換でも互換の積に書き換えることができます。つまり、どんな置換でも互換の積に書き換えることが出来るのです。
例えば、先ほどの例でいえば、
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 3 & 2 & 4 & 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 3 & 4 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 4 \end{pmatrix}\begin{pmatrix} 1 & 3 \end{pmatrix}$$
となるわけです。
置換の符号
置換が$n$個の互換の積で表されているとき、$sgn(\sigma) = (-1)^n$というものを考え、これを「置換の符号」といいます。$sgn$はsignの略で、日本語で符号という意味です。
偶数個の互換の積の場合、置換の符号は「1」になり、奇数個の場合「-1」になります。言ってしまえばただそれだけです。
例えば、
$$\sigma = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \\ 2 & 3 & 4 & 1 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 2 & 3 & 4 \end{pmatrix} = \begin{pmatrix} 1 & 4 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 3 \end{pmatrix} \begin{pmatrix} 1 & 2 \end{pmatrix}$$
のような置換の場合、$\sigma$は3つの互換の積なので、$sgn(\sigma) = (-1)^3 = -1$となります。
置換全体の集合
文字数によって置換の種類が何通りに変わるのか見てみましょう。
1文字
$$\begin{pmatrix} 1 \\ 1 \end{pmatrix}$$
当たり前ですが、1文字しかなければ、他の数字に置き換えることはできません。なので、置換の種類は1通りです。
2文字
$$\begin{pmatrix} 1 & 2 \\ 1 & 2 \end{pmatrix} \qquad \begin{pmatrix} 1 & 2\\ 2 & 1 \end{pmatrix}$$
2文字ならば、置換の種類は2通りです。
3文字

3文字ならば、置換の種類は6通りになります。
4文字以上はやりませんが、実は置換の種類は文字数の階乗と等しいのです。

$n$文字のときの置換の種類は$n!$通りってことですか?
その通りです!

さて、$n$文字の置換をまとめて集合にしたものは「置換全体の集合」と呼ばれ、$S_{n}$で表します。
つまり、$S_{2}$や$S_{3}$は次のようになります。

でも、何か分かりにくいですよね?それに書くのも面倒くさそうです。
そこで閃きました。

巡回置換使えばいいじゃん!
そう。巡回置換を使うのです。
先ほどの2文字の置換を巡回置換で書き換えると以下のようになります。

3文字の置換も同様に

そうすることで、$S_{2}$、$S_{3}$は次のようなコンパクトな形で書くことが出来ます。


長かったっすね…
最後に
置換の説明はこんな感じです。なぜこんなことをするのか疑問に思う方もいるかもしれませんが、すべては行列式の定義を作るためなので、覚えるしかありません。
この記事に書いてあることがちゃんと理解できれば、行列式の定義もちゃんと理解できると思います。
最後まで見て頂きありがとうございました!

巡回置換の説明に
ここで注意なのですが、
σ=(245)は
(中略)
σ=(542)と書いてもいいです
とありますが
σ=(524)の誤りですか?
sky1さん
すみません、σ=(524)の誤りです。修正致しました。
ご指摘ありがとうございます!
教科書読んでもいまいち腑に落ちなかった部分でしたが非常に簡潔でわかりやすかったです。再度教科書を読み直したらさらに理解が深まった気がします。